〜研究のタネ:スタッフによるミニ研究〜


職業ゆらいの苗字




・・・
ヨーロッパでの苗字のなりたち・・・

昔、ヨーロッパでは庶民(しょみん:貴族ではない普通の人たち)には苗字がなく、名前だけをつかってくらしていました。


ジョンさん

エリザベスさん

リチャードさん





ところが、それではこまったことになってしまいました。
同じ名前の人がたくさんでてきてしまったのです。


ジョンさん

ジョンさん

ジョンさん

ジョンさん

これでは”ジョンさん”と名前で呼んだだけでは誰のことだかわかりません。

そこで、同じ名前の人が何人もいるときは名前のうしろにあだなをつけることになりました。


このジョンさんは、お父さんがリチャードという名前だったので、
ジョン・リチャードソン(リチャードの子のジョン)”と呼ばれることになりました。


このジョンさんは、森にすんでいたので”ジョン・ウッド(森のジョン)”と呼ばれることになりました。

このジョンさんは、はだが真っ白だったので、”ジョン・ホワイト(白のジョン)”と呼ばれることになりました。

このジョンさんはりょうしだったので、”ジョン・フィッシャー(りょうしのジョン)”と呼ばれることになりました。



このようにしてつけられるようになったあだ名が、親から子どもへうけつがれるようになっていき、家族の名前(family name)になりました。


→こうして苗字がうまれました。





・・・
苗字のしゅるい・・・

ジョン・リチャードソンさんの”リチャードソン”のように、○○の子、という意味の苗字は、父称姓(ふしょうせい)と呼ばれています。

→その他の父称姓(ふしょうせい)
ジョンソン(ジョンの子:イギリス )、フェルナンデス(フェルナンドの子:スペイン )、アンデルセン(アンデルの子:デンマーク )、イワノフ(イワンの子:ロシア




ジョン・ウッドさんの”ウッド(森)”のように、すんでいる場所のようすをあらわす苗字は地形姓(ちけいせい)と呼ばれています。

→その他の地形姓(ちけいせい)
ブッシュ(茂み:イギリス )、ペリー(梨の木:イギリス )、ホルム(島:スウェーデン )、バッハ(小川:ドイツ

★田中、山本、林、森など、日本にも多い苗字です。




ジョン・ホワイトさんの”ホワイト(白)”のように、その人のとくちょうをあらわすような苗字はあだな姓と呼ばれています。

→その他のあだな姓
ロッシ(赤:イタリア )、モレノ(茶色:スペイン )、キャメロン(まがった鼻:イギリス )、メドヴェージェフ(クマ:ロシア )、ケネディ(ひどい顔:アイルランド




ジョン・フィッシャーさんの”フィッシャー”のように、おしごとが苗字になったものは職業姓(しょくぎょうせい)、と呼ばれています。

この職業姓が、”職業ゆらいの苗字”です。

他にほどんな国で、どんなおしごとが苗字になっているのかを見ていきましょう。



イギリス(英語の苗字)


イギリスの国旗

・スミス(Smith)・・・鍛冶屋(かじや)。鉄の道具をつくる人。
・クーパー(Cooper)・・・樽屋(たるや)。タルをつくる人。
・クック(Cook)・・・料理人。
・テイラー(Taylor)・・・仕立て屋。服をしたてる人。
・シェパード(Shepherd)・・・羊飼い。
・ポッター(Potter)・・・陶器職人。pot(ポット:つぼ)をつくる人。
・ベイカー(Baker)・・・パン屋。
・フィッシャー(Fisher)・・・漁師。fish(釣る)+er=釣る人
・ミラー(Miller)・・・粉ひき屋。小麦を小麦粉にするしごと。
・カーペンター(Carpenter)・・・大工。
・ブッチャー(Butcher)・・・肉屋。
  など


苗字ランキング(イングランド

・1. Smith(スミス)
・2. Jones(ジョーンズ) …ジョンの子
・3. Taylor(テイラー) 
・4. Brown(ブラウン) …茶色
・5. Williams(ウィリアムズ) …ウィリアムの子
・6. Wilson(ウィルソン) …ウィル(ウィリアム)の子
・7. Johnson(ジョンソン) …ジョンの子
・8. Davies(デイヴィーズ) …ディヴィッドの子
・9. Robinson(ロビンソン) …ロビン(ロバート)の子
・10. Wright(ライト) …木をけずる人(?)

職業姓、父称姓、あだな姓、地形姓、そのたの姓]

イングランド(イギリスのいちぶ)で一番多い苗字は職業姓のスミスです。
「-son」や「-s」がつく苗字は”○○の子”という意味の父称姓です。


苗字ランキング(スコットランド
・1. Smith(スミス)
・2. Brown(ブラウン)
・3. Wilson(ウィルソン)
・4. Campbell(キャンベル) …元の意味は”ゆがんだ口”(?)
・5. Stewart(スチュアート) …元の意味は”一家の保護者”
・6. Thomson(トムソン) …トムの子
・7. Robertson(ロバートソン) …ロバートの子
・8. Anderson(アンダーソン) …アンドリューの子
・9. Macdonald(マクドナルド) …ドナルドの子
・10. Scott(スコット) …元の意味は”スコットランド人”

スコットランド(イギリスのいちぶ)でも一番多い苗字はスミスです。
「-son」のほかに、「Mac-、Mc-」という苗字も”○○の子”という意味になります。

イギリスのほかの”○○の子”という意味の苗字には「O'-」、「Fits-」があります。




ドイツ(ドイツ語の苗字)


ドイツの国旗


・バウアー(Bauer)・・・農民。
・ワーグナー(Wagner)・・・”wagen(車)”の人。車を作る人。
・ミュラー(Müller)・・・粉ひき屋。
・フィッシャー(Fischer)・・・漁師。
・シュナイダー(Schneider)・・・仕立て屋。
・シュミット(Schmidt)・・・鍛冶屋。
・ツィマーマン(Zimmermann)・・・大工。
・シューベルト(Schubert)・・・靴屋。
・シューマッハ(Schumacher)・・・靴作り職人。
  など

ドイツは職業姓がとても多い国です。
↓のランキングでも、トップ10すべてが職業姓です。

苗字ランキング(ドイツ
1. ミュラー(Müller)
2. シュミット(Schmidt)
3. シュナイダー(Schneider)
4. フィッシャー(Fischer) …漁師
5. マイヤー(Meyer) …執事
6. ウェーバー(Weber) …織物職人
7. ワーグナー(Wagner) 
8. ベッカー(Becker) …パン屋
9. シュルツ(Schulz) …教区の責任者
10. ホフマン(Hoffmann) …農園主

職業姓、父称姓、あだな姓、地形姓、そのたの姓]




スペイン(スペイン語の苗字)


スペインの国旗

・サパテーロ(Zapatero)・・・くつ職人 。
・カルニセロ(Carnicero)・・・肉屋さん。
・モリネーロ(Molinero)・・・粉ひき屋。
・ラドローン(Ladrón)・・・どろぼう(?)。
  など

スペインでは、イギリスやドイツにくらべて、職業姓は少ないようです。
↓のランキングにも、ひとつも入っていません。


苗字ランキング(スペイン
1. ガルシア(Garcia) …古くからある苗字。元の意味は「槍」(?)
2. ロペス(Lopez) …ロペの子
3. ペレス(Perez) …ペドロの子
4. ゴンザレス(Gonzalez) …ゴンザロの子
5. サンチェス(Sanchez) …サンチェの子
6. マルティネス(Martinez) …マルティンの子
7. ロドリゲス(Rodriguez) …ロドリーゴの子
8. フェルナンデス(Fernandez) …フェルナンドの子
9. ゴメス(Gomez) …ゴーメの子
10. マルティン(Martin) …キリスト教の聖人の名前から

職業姓、父称姓、あだな姓、地形姓、そのたの姓]

「-ez」は”○○の子”という意味。





イタリア


イタリアの国旗
・フェラーリ(Ferrari)・・・鍛冶屋。
・コンタディーノ(Contadino)
・・・農民。
  など

↓しごとかかわるものがゆらいの苗字。

・ザッパ(Zappa)・・・くわ =農民
・マルテーリ(Martelli)・・・かなづち =大工
・ファリーナ(Farina)・・・小麦粉 =パン屋
・フォルニ(Forni)・・・オーブン =料理人
・マリン(Marin)・・・海 =漁師
  など


苗字ランキング
1. ロッシ(Rossi) …赤(北イタリア、中部イタリアにおおい)
2. ルッソ(Russo) …赤(南イタリアにおおい)
3. フェラーリ(Ferrari)
4. エスポージト(Esposito) …捨て子
5. ビアンキ(Bianchi) …白
6. コロンボ(Colombo) …ハト
7. ロマーノ(Romano) …ローマから来た人
8. リッチ(Ricci) …まき毛
9. ガッロ(Gallo) …フランスから来た人
10. グレコ(Greco) …ギリシャから来た人

職業姓、父称姓、あだな姓、地形姓、そのたの姓]






フランス(フランス語の苗字)

フランスの国旗

・ポワソン(Poisson)・・・Poisson=魚。漁師、魚屋(?)
・ルフェーヴル(Lefebvre)・・・鍛冶屋
・フルニエ(Fournier)・・・パン屋
・シュヴァリエ(Chevalier)・・・騎士
  など


苗字ランキング(フランス
1. マルタン(Martin) …フランスの守護聖人の名前
2. ベルナール(Bernard) …聖人の名前
3. デュボワ(Dubois) …森から来た人
4. トマス(Thomas) …聖人の名前
5. ロベール(Robert) …ゲルマン民族の名前(英語ではロバート)から
6. リシャール(Richard) …ゲルマン民族の名前(英語ではリチャード)から
7. プチ(Petit) …小さい
8. デュラン(Durand) …元はラテン語の”強い”から(?)
9. ルロワ(Leroy) …古くからつかわれている名前。元の意味は”王さま”(?)
10.  モロー(Moreau) …浅黒いはだ

職業姓、父称姓、あだな姓、地形姓、そのたの姓]

★下の名前としてつかわれている名前がそのまま苗字になったものが多いです。




デンマーク


デンマークの国旗
・メラー(Møller)・・・粉ひき屋
・コック(Koch)・・・料理人
・シュミット(Schmidt)・・・鍛冶屋
・シュルツ(Schultz)・・・教区の責任者
  など

デンマークで農民が苗字をつかいはじめたのはヨーロッパの他の国よりも遅い200年ほどまえから。それまでは、お父さんの名前に「〜セン(-sen:〜の子という意味。)」をつけた父称(ふしょう)を苗字の代わりに使っていました。
なので、それをそのまま苗字にした父称姓がとてもおおい国です。
職業姓はとなりの国、ドイツから入ってきたものがおおいようです。


苗字ランキング
1. イェンセン(Jensen) …イェンの子
2. ニールセン(Nielsen) …ニールスの子
3. ハンセン(Hansen) …ハンスの子
4. ペデルセン(Pedersen) …ペデルの子
5. アンデルセン(Andersen) …アンデルスの子
6. クリステンセン(Christensen) …クリステンの子
7. ラルセン(Larsen) …ラルスの子
8. セーレンセン(Sørensen) …セーレンの子
9. ラスムッセン(Rasmussen)   …ラスムスの子
10. イェルゲンセン(Jørgensen) …イェルゲンの子

職業姓、父称姓、あだな姓、地形姓、そのたの姓]




ロシア


ロシアの国旗

・クズネツォフ(Кузнецов)・・・鍛冶屋
・ポポフ(Попов)・・・司祭
・メルニコフ(Мельников)・・・粉ひき屋
・ルィバコフ(Рыбаков)・・・漁師
・サポジェニコフ(Сапожников)・・・靴屋
・シャポシュニコフ(Шапошников)・・・帽子屋
・パストゥーホフ(Пастухов)・・・羊飼い
  など


苗字ランキング
1. スミルノフ(Смирнов) …しずかな人
2. イワノフ(Иванов) …イヴァンの子
3. クズネツォフ(Кузнецов)
4. ポポフ(Попов)
5. ソコロフ(Соколов) …ハヤブサ
6. レベジェフ(Лебедев) …白鳥
7. コズロフ(Козлов) …オスのヤギ
8. ノヴィコフ(Новиков) …ノヴィクの子
9. モロゾフ(Морозов) …霜(しも)
10. ペトロフ(Петров) …ピョートルの子

職業姓、父称姓、あだな姓、地形姓、そのたの姓]


ロシアの苗字に多い「-ov(〜オフ)」は、”〜の”という意味です。

ロシアでは男の人と女の人で苗字の形が変わります。
女の人の場合は「-ov(〜オフ)」の部分が「-ova(オワ、オヴァ)」になります。
なので同じ家族の中でも、お父さんと息子は”イワノフ”でお母さんと娘は”イワノワ”というふうにちがう形の苗字になります。




〜おまけ1:アメリカの苗字〜



アメリカの国旗
アメリカは、いろいろな人種の人々がいる国なので、苗字の数も世界一です。
160万種類の苗字がつかわれているといわれています。


苗字ランキング
1. スミス(Smith)
2. ジョンソン(Johnson)
3. ウィリアムズ(Williams)
4. ブラウン(Brown)
5. ジョーンズ(Jones)
6. ミラー(Miller) 
7. デイヴィス(Davis)
8. ガルシア(Garcia)
9. ロドリゲス(Rodriguez)
10. ウィルソン(Wilson)

職業姓、父称姓、あだな姓、地形姓、そのたの姓]


アメリカをつくったのはイギリス系の人なので、イギリスに多い苗字はアメリカでも多いようです。

イギリス系以外の人々の中には、アメリカへやってくるときに、もともとの苗字を同じ意味の英語の苗字に変えた人もいます(スウェーデン:ヨハンセン → ジョンソン、ドイツ:ミュラー → ミラー、ポーランド:カワルスキー → スミス など)。なので、イギリス系の苗字をもっている人が全てイギリス系の人だとはかぎりません。

アフリカ系の黒人の人々のおおくはもともと奴隷としてつれてこられた人々だったので、苗字がありませんでした。そのような人々は、奴隷でなくなった時、主人(白人。多くはイギリス系)の苗字を自分の苗字としてつけた人が多いのでイギリス系の苗字をもっている人が多いそうです。
ジャクソン、ハリス、ランキングに入っているブラウン、ジョーンズ、デイヴィスなどが特にアフリカ系の黒人に多い苗字だといわれています。

メキシコ系などのヒスパニック(スペイン語を話す国からきた人)の人々はアメリカへ来てももともとの国でつかっていた苗字を使う人が多いので、スペイン語系の苗字を持っています。
最近、アメリカではヒスパニックの人々がふえているので、スペイン語系の苗字もふえてきています。ランキングの中ではガルシア、ロドリゲスがスペイン語系の苗字です。


アメリカ人の人種の割合(2000年時)

 




〜おまけ2:日本の職業姓〜

日本の国旗

ヨーロッパほどおおくはありませんが、日本にも職業がゆらいの苗字はあります。

・服部・・・”はたおり”からきている(?) →ドイツのウェーバーと同じおしごと
・犬養(犬飼)・・・犬を飼っていた人(?)
・大蔵・・・朝廷の大蔵を管理した人。
・鵜飼・・・鵜を飼っていた人。
・庄司(荘司)・・・荘園の管理をしていた人。
・鍛冶・・・鍛冶屋    →イギリスのスミスなどと同じおしごと
・金子・・・鍛冶屋(?)   →イギリスのスミスなどと同じおしごと
・〜屋、〜谷・・・お店をやっていた人。米屋、加賀谷、鍋谷さんなど。
・渡辺・・・川でふなわたしをしていた人(?)
  など

ヨーロッパにおおい職業姓”鍛冶屋さん”は、日本でもだいじなおしごとだったので苗字になっています。日本にはこむぎこからパンをつくるしゅうかんがなかったので、”粉ひき屋”や”パン屋”をいみする苗字はないようです。
ヨーロッパでたくさんかわれていた羊も日本ではかわれていなかったので羊飼いという苗字はありませんが、鵜飼(うかい)のような日本独自の職業がゆらいになった苗字があります。





  • =参考資料=

    ・日本人の名字の種類とルーツ
    http://home.r01.itscom.net/morioka/myoji/shurui2.html

  • ・人名力
    http://blog.goo.ne.jp/jinmeiryoku

  • ・ロシア人の名前:姓の意味
    http://rossia.web.fc2.com/rossia/fio/znachenie.html

    ・Family Name - WIkipedia
    http://en.wikipedia.org/wiki/Family_name


リサーチ担当:小栗宏太

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